< 一覧に戻る

新二十歳の皆様へ

初めまして。日本酒ブランドSAKE HUNDREDの生駒龍史です。
20歳を超える皆さんに、お祝いを申し上げます。

私は1986年生まれの37歳です。
27歳で会社を立ち上げ、日本酒の魅力を伝える仕事をしています。

2024年は震災や航空機の事故など、目を覆いたくなるようなつらい出来事から始まりました。

震災のあった能登には私自身も何度も足を運んでおり、その自然、文化、人々が危機に瀕している姿に心が張り裂けるような思いでいます。

そんな中ではありますが、お酒との接点が生まれる20歳というタイミングだからこそ、意味のあるメッセージにできればと思っています。

このたび20歳を迎える皆さんに、「お酒と付き合うこと」についてお伝えさせてください。

つまるところ「お酒と良好な関係を築くことは人生を豊かにします」ということが言いたいのですが、それを皆さんが受け入れるかどうかは、もちろん自由です。

しかし、お酒を仕事にする私が、どのような想いでお酒に向き合っているかを知ってもらうことは意味があるのではと考え、大変僭越ではありますが、社会に生きる年長者としてこの場を借りてご紹介させていただきます。

お酒の魅力を語るうえで、そのデメリットについても話をしないとフェアではありませんね。まずは、お酒のリスクについて説明します。

「酒は百薬の長」とは言うけれど

皆さんも、大人がこのように言うことを聞いたことがあるかもしれません。
「酒は百薬の長、ほどほどに飲む分には健康にも良いんだよ」と。

この言葉の大元は、兼好法師という人が鎌倉時代末期に書いた随筆集『徒然草』にあります。
大変便利な言葉で、これまでに数多の人が、この言葉を使って飲酒を肯定してきたことでしょう。

しかし、実はこの一節には続きがあります。

「百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそ起れ」

お酒が多くの病気の原因になる、ということがはっきりと書かれています。
すごい切り取り方をしたものだなと感心してしまいますが、1000年近く前から、お酒は健康に悪いと言われていたんですね。

過度な飲酒は肝障害や高血圧、アルコール依存症など、生命に重篤な影響を与える病気の要因になるということを正しく理解してください。身体は資本と言いますが、健康は何にも代えがたい大切なものです。

飲酒による事件・事故

警視庁のデータによると、2022年の飲酒運転による交通事故件数は2,167件。うち死亡事故件数は120件となっています。事故数も死亡者数も、社会全体の努力の結果として年々減少していますが、それでもまだ飲酒運転による事故は数多く発生しています。

飲酒により正常な判断ができなくなったとき、それを原因とした事件や事故が起こることがあります。

アルコールには麻酔作用があり、合理的な思考を司る大脳新皮質の活動が抑えられることで感情の波が大きくなったり、酔いが深くなると真っ直ぐに歩けなくなるほどに運動機能にも影響を及ぼすことが原因です。

ここまでお話しすると「お酒って怖いな」と思いますよね。それが正しい認識です。
怖くない、何も問題がないなんてことはありません。まずはその怖さを理解し、その上で良い付き合いができるか、したいと思えるかを自分で判断し行動することが大切なことです。

重要なのは飲む量、そして頻度

もう少し具体的な話を続けます。

酔いの状態には「爽快期」「ほろよい期」「酩酊初期」「酩酊期」「泥酔期」「昏睡期」という6つの段階があり、周囲への悪影響を及ぼしたり、生命に重篤な影響を与える可能性があるのは「酩酊期」からだと言われています。

一般的に、ビールの中瓶1〜2本、日本酒で言えば1〜2合(180ml〜360ml)程度であれば、ほどほどの酔いで済ませることができます。
また、厚生労働省が発表している飲酒量の頻度に関する指標では、週に1~2日、日本酒1~2合を飲む程度であれば、生活習慣病のリスクを高める可能性は低いとされています。

つまり、問題が最も顕在化するのは、大量の飲酒を高頻度で行うことであり、少しの量を低頻度で嗜むことには、実態としては大きな問題はないということです。(もちろん個人の体質も大きく関係しますので、あくまでもひとつの指標としてください)

お酒は何のためにあるのか

ここまで、お酒のリスクについて説明してきました。少し怖がらせてしまったかもしれませんが、飲酒が及ぼす影響について正しく理解しておくことはとても大切です。

さて、冒頭に飲用した『徒然草』の話に戻りましょう。
「百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそ起れ」には、さらに続きが存在するのです。

「かくうとましと思ふものなれど、おのづから、捨て難き折もあるべし。月の夜、雪の朝あした、花の本にても、心長閑のどかに物語して、盃さかづき出いだしたる、万の興を添ふるわざなり。つれづれなる日、思ひの外ほかに友の入いり来て、とり行おこなひたるも、心慰む」

現代語に訳すと「月の明るい夜、雪の降った朝、桜の花の下で、のんびりと話をして、盃を差し出しているのは、何につけても興趣(おもしろみ)を増すやり方である。所在なくて退屈な日、思いがけず友人がやって来て、盃を傾けるのも、心が慰められるものである」

美しい景色を眺めながら、友だちとお酒を飲むことで心が穏やかになる、ということですね。この一節はまさに、お酒を飲むことの意味を表しています。

お酒の効能というのは、「人と人との繋がりをより豊かにすること」だと、私は思っています。
恋人の笑顔がいつもより愛おしく感じたり、仲良くなりたかった知人との関係が一気に縮まったり。そうした“心を満たし、人生を彩る”ような、普段よりも深い人との繋がりを、お酒は提供してくれます。

現代社会では理性的であることが求められますが、私は過度に理性的であろうとする社会に疑問をもつことがあります。

例えば映画を観て感動したり、美しい景色をみて心を打たれたり、好きなアーティストの曲に震えるような共感を抱いたり。そうした感情や感性の起伏こそが生きる醍醐味であり、人生をドラマチックにするのだと思うのです。
そしてお酒は、そのような感情や感性をいっそう豊かにして、ひとと分かち合う喜びを後押ししてくれます。それは、人生を彩る素晴らしい体験だと私は思うのです。

おわりに

新二十歳の皆さん。これから迎える新しいスタートにおいて、お酒との関係はひとつの大切な要素です。私が伝えたかったのは、お酒との健全な関わり方、その豊かさと危険性の両面です。

お酒は、適切に楽しむことで人生に豊かさをもたらし、友情や愛を深める手段になり得ます。しかしその一方で、その影響を過小評価してしまうと、私たちの健康や社会に悪影響を及ぼすこともあります。

真の健康とは、肉体的・精神的・社会的という3つの観点で健康のバランスが取れている状態です。お酒との付き合い方も、この「3つの健康」を基に考えることが大切です。適度な飲酒がもたらす精神的な安らぎ、社交の場での楽しさ、そして何よりも、それが肉体的健康を害しない範囲内であること。これらはすべて繋がっています。

皆さんがこれからの人生で、お酒と上手に付き合い、それを通じて人生の豊かさを感じて成長していくことを心から願っています。20歳の門出に当たり、自分自身と向き合い、健康で幸せな人生を送るための一歩を踏み出してください。そして、その旅の途中で、私たちSAKE HUNDREDとも、どこかで出会っていただけたら、それほど嬉しいことはありません。

皆様の未来が、希望と幸福で満ち溢れることを、心より祈念いたします。

2024/01/08

SAKE HUNDRED
Founder
生駒龍史

このページをシェアする