世界観の追求と、挑戦する意思。 OdeとSAKE HUNDREDに共通するブランド哲学。
2019年12月、SAKE HUNDRED(当時「SAKE100」)は、「モダンフレンチ」という枠に収まらない新たなガストロノミーを追求する東京・広尾のフレンチレストラン「Ode」にて、24名限定のペアリングディナーを開催しました。
本インタビューでは、オーナーシェフ生井祐介(なまいゆうすけ)氏が引き出したSAKE HUNDREDの新たな一面を振り返るとともに、ミシュラン一つ星も獲得したレストランOdeの思想を、ブランドオーナー生駒龍史が紐解きます。
生井祐介氏
「Ode」オーナーシェフ
1975年、東京都生まれ。音楽の道を志していた最中、25歳で料理の世界に惹かれ転向。都内フランス料理店で働いた後、2003年より「レストランJ」(東京・表参道)、「マサズ」(長野・軽井沢)の植木将仁氏のもとで約5年間修業。同じ軽井沢の「ウルー」で3年間シェフを務めた後、2012年11月、東京・八丁堀の「シック・プッテートル」のシェフに。2015年度版ミシュランガイドでは一つ星を獲得した。2017年3月より新店準備に入り、同年9月に「Ode」(東京・広尾)をオープン。2019年度版ミシュランガイドにて一つ星を獲得。2020年、Asia’s 50 Best Restaurantsで35位にランクイン。
ブランドの新たな一面を引き出したOdeのペアリング
生駒:昨年のペアリングディナーではありがとうございました。改めて当時のお話をさせてください。はじめてSAKE HUNDREDを試されたときは、どのような感想をもたれましたか?
生井:とてもおもしろいお酒だと思いました。だからこそ、自分も積極的にその“可能性”を探らせてもらいました。各商品の「お酒の魅力が一番伝わる楽しみ方」をあえて見ないようにして、フラットにペアリングを考えようと。
Ode オーナーシェフ 生井祐介氏
生駒:打ち合わせの際、「ペアリングイベントが3回目だ」とお話をしたところ、「過去2回で一通りのペアリングをしていると思うので、そこでは出せないようなおもしろさを提案したい」とおっしゃっていただいたのが印象的でした。
生井:単なるペアリングではなく、お客様には驚きを持って帰っていただけるように意識していました。
生駒:まさにその言葉通り、Odeのペアリングには驚かされっぱなしでした。僕は日本酒とのペアリングメニューの場合、料理が出てきた瞬間に「あ、こう合わせるんだな」とシェフの意図がイメージできることが多いんです。
ただ、Odeではそれが全然わからなかった。口に入れるまで想像ができなかったんです。例えば、メインディッシュの肉料理にデザート酒の『天彩』を合わせたのは完全に予想外でした。ただ、口に入れて味わい、飲み込んだあとの納得感がすごい。何より、シンプルに「おいしい」って思ったんです。
焼尻島のマトン × 天彩 20°C
生井:ありがとうございます。
生駒:理屈を超えた、直感的な美味しさが感じられました。我が子の知らない一面を見たような気持ちで、僕らの学びも多かったです。
ブランドは“らしさ”の中で挑戦を繰り返す
生駒:Odeの料理は隅々まで思想やこだわりが行き届いていますよね。ゴールが明確で、そこへたどり着くために食材や調理法を選んでいると言えるくらい、“理想”の解像度が高いように感じます。生井さんは何を考え、今のOdeを作り上げているのでしょうか。
生井:ひとつは、俯瞰で見ても拡大しても、一貫した作品になるように意識しています。お店の内装もそうですし、お皿や料理、考え方もです。すべてに意味があり、コラージュして紡がれた状態でもそれが伝わるように、と考えています。
ただ、ひとつひとつ吟味しているというより、取捨選択は自然に決まっている感覚です。「これはこの料理に合うか」「これはOdeらしいか」なども瞬時に振り分けられ、自然とOdeが形になっている感覚があります。
Ode店内
生駒:自然と形作れるほど、目指すゴールに対する解像度が高いんですね。すると、お客様に届けたいものも明確なのでしょうか?
生井:一定は明確にしつつ、お客様の前では常に変化すべきだと思っています。なので、自分の中には「このお皿はこれが完成形だ」というイメージを持ちつつも、出す直前に「あの人にはちょっと合わないかもしれない」と考えて変えたりしています。
お客様は正直ですから、「おいしかったです」と言っても、気に入らなければ二度と訪れてくれません。レストランは毎日の積み重ねです。お店の“らしさ”や、お店での体験に共感してくれる方が増えることで、作り手も自由度高くやりたいことをやれると思っています。
生駒:Odeはあらゆるものの完成度が高かったので、今のお話は正直意外でした。「Odeはこうあるべき」と決めつけるのではなく、環境から刺激を受け、お客様と向き合い、変化すべきと考えている。料理や世界観は、意図的にアップデートされているのでしょうか?
生井:常に考えていますね。いろいろな価値観やニーズ、味と出会い、その都度咀嚼して自分がどういうものを作り出すか。自分自身を試しながらやっている感覚かもしれません。毎シーズン、違う料理にチャレンジしているのもそういった理由からです。
ただ、他者が考えるOdeのイメージと、私たちが提案するOdeはある程度チューニングしなければいけません。もちろん、意外性や驚きが共感を呼ぶこともありますが、その意外性は意図してやらなければいけない。どちらにしても、チューニングが必要です。
生駒:「お客様が期待するOdeのイメージは守りながら、同時に新しいことにチャレンジする」というイメージですね。SAKE HUNDREDも近いものがあります。ブランドの持つ世界観の中で、いかにお客様へ提案するかを考えています。
SAKE HUNDRED ブランドオーナー 生駒龍史
ブランドアドバイザーとして事業に参画していただいている元エルメス本社副社長の齋藤峰明さんは、「ブランドはお客様の想いを代行するものだ」とおっしゃっていました。つまり、SAKE HUNDREDのファンであることが、お客様のアイデンティティ、拠りどころになる。
そのブランドに矛盾があると、お客様は何を信じていいかわからなくなってしまう。ですからブランドが価値観を貫きつつも、その中でいかに挑戦ができるかのバランスを意識しているんです。
生井:かなり近いですね。期待に答えることと、チャレンジすること。そのバランスを上手に保てる人がブランドを確立できるし、説得力を持てるのではないかと感じます。
生駒:迎合しすぎると期待を上回らなくなってしまうけれど、突き抜けすぎてもブランドとして想いを背負うことができない。お客様が「よくわからない」ではなく「そうきたか」と思ってもらえるアプローチを模索しているイメージですね。
生井:まさに。私は「三歩先には進んでなくていい」という言葉で表現しています。半歩か、一歩先くらいでいい。「こっちだよ」と言われて行ってみたくなるような距離感ですね。常にちょっと先を提案して、共感を得て、追いついてみたいと思わせる。そのバランスを大切にしています。
“日本の食”の可能性
生駒:生井さんは海外でも活躍されています。海外に出たからこそ感じる、日本のシェフであることの強みや課題感などはありますか?
生井:ここでも「ブランド」の話をさせてください。日本のレストランはまだまだ「自分で自分の良さを理解し、伝える力」が弱いと感じているんです。自画自賛ではなく、自分を客観視し、どう打ち出すかを分析できる人が不足しているなと。
生駒:なるほど、自らの良さを伝えるところが課題なのですね。逆に、強みに感じられた点はありましたか?
生井:感覚の豊かさと繊細さでしょう。味覚に限らず、「こんなところまで気づくのか」と思える繊細さがあるなと感じています。また、最終形を想像する力が強い。どう食べさせたいか、どういう味か、どういう食感か、温度なども含めてですね。海外でも同じようにできる方はたくさんいらっしゃいますが、日本はそのレベルが高いと思います。
生駒:日本酒も、恐ろしいほど繊細で細やかな違いに価値を見いだせる。成分値で比べると、日本酒より圧倒的にワインの方が幅があるんです。ワインは赤と白で別物ですし、皮を入れるか否かでも変わりますよね。一方、日本酒の原料は米と水と麹だけ。差別化しづらいにもかかわらず、数万もの種類がある。異常なまでに繊細です。
ただ、そのぶん「わかりづらい」という課題もあります。枝葉末節な差別化をし過ぎている。だからSAKE HUNDREDは、ラインナップ上で横幅を広く取っているんです。これは、海外を意識する上でも重要だと思っていて、繊細さは持ち合わせつつも、わかりやすさを損ねてはいけないなと。
生井:料理も一緒ですね。外に出ていくときの仕様はあります。作り手としてのスタンスやコンセプトはありつつも、受け入れてもらうためにある程度のわかりやすさは大事にします。
特に海外イベントの場合、Odeを100%受け入れてもらうのではなく、広く知ってもらい、イベントに来た人が幸せになれる場を作ることが大事ですから。世界観や大切にしている核の部分、ブランディングも大事にしながら、現地のシェフへの相談も踏まえてフィットさせようとしています。
OdeとSAKE HUNDREDに共通していた、ブランドの一貫した世界観を大切にしながら、同時に、変化を恐れずに挑戦してく姿勢。“らしさ”と“新しさ”をどちらも追求するからこそ、ブランドはお客様の期待に答え続けられるのです。
この対談にあわせて、生井シェフにはSAKE HUNDRED『思凛』にあわせる季節のペアリングメニューをご考案いただきました。教科書的なセオリーにとらわれない、驚きのペアリングです。次回のストーリーにてご紹介します。