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3年をかけた、GUCCIからの宿題



6月3日、SAKE HUNDREDは新たな一本を世に送り出しました。

『密花|MIKKA』。

イタリアのラグジュアリーブランドGUCCIとともに、3年以上の歳月をかけて生み出したスパークリング日本酒です。グッチ ジャルディーノ、そしてグッチ オステリア、世界で2つの場所だけで、100本限定でお届けいたします。
ラグジュアリー市場の開拓を目指す私たちにとって、このコラボレーションには強い想いがあります。今回は、この『密花』が誕生するにいたった背景をお伝えいたします。

2023年6月、ご縁が繋がり、当時GUCCI JAPAN CEOであったダニエレ氏と面会する機会を得ました。彼は日本の文化や歴史、技術に強い敬意と関心を持っており、伝統的な日本酒産業で挑戦を続けるSAKE HUNDREDにも興味を持ってくれていました。

詳細は省きますが、紆余曲折を経てコラボレーションが決定。最初のステップとして重要なのは「どのような酒を造るか」という思想設計でした。SAKE HUNDREDの酒づくりは常に、その酒のあり方を考え、具体化するところから始まります。思想のヒントを得るため、改めてダニエレ氏を中心とした経営チームに具体的な要望を尋ねてみました。その答えは、極めてシンプルなメッセージでした。

「どれだけ時間がかかってもいい。最高の一本をつくってほしい」

一見すると、時間に猶予があり、際限なくこだわれるという恵まれた環境のように思えました。しかし、シンプルであるということは、一切の逃げ場がないということでもあります。
期限も、細かな仕様も示されないということは、「最高とは何か」という問いのすべてを、私たち自身が引き受けなければならないということです。それも世界に名を轟かせるブランドとの協業において。GUCCIから渡された宿題の難しさに気づいたのは、酒質を具体化し始めてからでした。

まず私たちはその“最高”という高い壁に、技術で応えようとしました。

GUCCIとの協業で生まれる一本なのだから、これまでにない、複雑で高度な技術を尽くさなければならない。そう考えて、さまざまなアイデアを検討し、実際に社内で試作品をつくったり、様々な酒蔵にヒアリングをし「革新的な技術」を軸に“最高”を模索しました。

しかし、どれだけ技を凝らしても、これだ、と思える地点には届きませんでした。今になって振り返れば、私たちはあの頃、複雑であることを“最高”であることと混同し、技術は、目的ではなく手段だということを見失いかけていたのだと思います。

既に1年以上が経過し、行き詰まった私たちは、一度立ち止まることにしました。
技術の話をいったん脇に置き、GUCCIというブランドそのものを深く知ることから始めようと考えたのです。彼らが何を大切にし、どのように美をかたちにしているのか。その「あり方」を学ぶ旅が、ここから始まりました。

店舗を訪問して販売員の方々との対話を重ね、彼らの歴史や技術を学ぶなかで、私は一つの事実に気づかされました。GUCCIは伝統を何よりも大切にしながら、同時に、常に新しい挑戦を続けている、ということです。これはあらゆるブランドに言える、「伝統と革新」という太いテーマではありますが、GUCCIがもつ挑戦へのマインドは、ブランドの精神性の核をなすほど強固なものであると感じました。100年を超える歴史を礎としながら、毎シーズン、新しい表現を世に問い続ける。守ることと、壊すこと。その緊張感の中にこそ、彼らがラグジュアリーであり続ける理由があるのだと、私は理解しました。

この理解は、酒質の設計にも決定的な転換をもたらしました。私たちは、「最高の一本を」という宿題を、技術の難しさで応えるという発想をやめました。技術を中心に据えるのではなく、思想を中心に据える。そう発想を切り替えた瞬間から、私たちの試行錯誤は、初めて前に進み始めました。

伝統を大切にしながら、革新を続ける。そのGUCCIのあり方を、酒そのもので体現するとしたら、どんな味わいになるのか。その問いから生まれた答えが、熟成酒と新酒のブレンドでした。

長い時間をかけて育まれた酒と、その年に生まれたばかりの瑞々しい酒を、ひとつの瓶の中で出会わせる。伝統と革新を、味わいの構造そのものに宿らせる試みです。私たちが目指したのは、両者がひとつの景色を共に描き出すブレンドでした。

しかし、ブレンドのポテンシャルをもつ高品質な熟成酒を探すのは至難の業です。私自身も常に様々な熟成酒を飲み続けていますが、強い個性がブレンドになると足かせになるケースがほとんどです。

光明が見えたのは、ブレンドの軸にSAKE HUNDREDの氷温熟成15年のヴィンテージ日本酒『礼比』を据えるという発想にたどり着いたときです。『礼比』のしなやかな骨格が、新酒のフレッシュさを支えるだけでなく、その個性を引き立てる土台として働き始めました。そして瓶内二次発酵によって生まれる、絹のようになめらかで持続性のある気泡が、両者の対話をひとつの調和へと束ねていく。そうして、『密花』が、ようやく姿を現したのです。シャンパンを追うことなく、日本酒だからこそ実現した最高の一本の誕生です。

醸造を担っていただいた永井酒造さんは、以前よりラグジュアリーな世界観をもって世界で高く評価されている酒蔵。蔵元である永井さんご夫妻は、業界の中でも群を抜いてブランドへの理解と実践のある方です。スパークリング日本酒と言えば永井酒造という方も多くいらっしゃるほど、泡酒の製造において頭が一つも二つも抜けています。

『礼比』と新酒のブレンド比率もまた、時間をかけてベストを検証しました。
数%でも比率が変わると味もガラッと変わってしまうほど、日本酒の味わいは繊細です。弊社商品担当の河瀬と1%単位で検証を繰り返し、これだというバランスを見つけ出しました。
比率を決定したあとは、圧倒的な信頼をよせる永井酒造さんにバトンをお渡しし、完成を待つだけです。

そして、数ヶ月を経て『密花』は完成しました。
初めて口にした瞬間のことを、私は今でも忘れません。設計者でありながら「こんな酒がこの世界に存在するのか」と感動してしまいました。長い時間をかけて育まれた日本酒の深みと、生まれたばかりの日本酒の輝きが、たしかにひとつの景色の中で響き合っている。3年という歳月が、すべてこの一杯に流れ込んでいるように感じました。

出来上がった酒を持って、GUCCIのチームに試飲をしてもらいましたが、その品質は即座に認められ、一度で承認を得ることができました。声を上げて喜ぶというより、深く長く息をついた。試行錯誤の苦労が、静かに報われた瞬間でした。

『密花』の発表は、SAKE HUNDREDにとって一つの分水嶺だと受け止めています。
世界を代表するラグジュアリーブランドのひとつが、日本酒を、自らの世界観の一部として迎え入れてくださった。この事実は、SAKE HUNDREDという一ブランドの出来事である以上に、日本酒というカテゴリーそのものに、新しい可能性の窓を開く出来事であると確信しています。

もっとも、この一本ができたからといって、私たちが何かに到達したわけではありません。ラグジュアリーとは、たどり着く地点のことではなく、誰に見られていなくても、自分たちが信じる美に向かって、愚直に手を動かし続ける態度のことなのだと思います。

これからもSAKE HUNDREDは、品質と思想、文化と社会、そしてお客様一人ひとりの心と真摯に向き合ってまいります。
そして、『密花』がお客様の人生のかけがえのない一場面に寄り添う一本となることを、心から願っています。この一本を起点に、次の100年の日本酒文化が、より豊かで、より自由で、より誇り高いものになっていくよう、私たちも歩みを止めることなく、これからも未来を切り拓いてまいります。

2026/07/01

SAKE HUNDRED
Founder
生駒龍史

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