「アロマフレスカ」原田慎次 × 天彩 —日本酒ペアリングが開いたイタリアンの匠の新たな地平

ものづくりの世界では、まったく別ジャンルの作品に触れることで刺激を受け、創作意欲が掻き立てられる作り手がいます。それは、日々料理と向かい合う料理人においても例外ではありません。東京・銀座のイタリア料理レストラン「アロマフレスカ」のオーナーである原田慎次シェフが考案したノドグロとグラノーラで仕立てた一品もまた、『天彩 AMAIRO』にクリエイティビティを刺激されて誕生したもの。原田シェフと、『天彩』の間に生まれたストーリーをお届けします。

原田慎次シェフ
1969年生まれ。栃木県出身。服部栄養専門学校に進学後、東京・六本木のレストラン「ヂーノ」(※現在は閉店)に入店し、佐竹弘シェフのもとで修業を積む。’98年に独立、「アロマフレスカ」をオープン。2022年4月1日、ザ ロイヤルパークホテル アイコニック 京都に「シンクロニア ディ シンジハラダ」を開業予定。

好奇心をくすぐられた「香りの料理人」

「アロマフレスカ」の厨房には、なんとも言えない芳ばしい香りが漂っていました。

中心で腕を振るうのは、オーナーシェフの原田慎次さん。“フレッシュな香り”を意味する「アロマフレスカ」の名の通り、食材がもつ香りを表現することに心血を注ぐイタリアンの匠。料理をテーブルに届けた瞬間、香りがふわりと立ち上るように切り方や火入れのベストを追求し続けます。

「アロマフレスカ」原田慎次シェフ

原田シェフが「ひどく感銘を受けた」と語るのが、SAKE HUNDRED『天彩』。その第一印象について、原田シェフは次のように語ります。

「ワインが料理とまっすぐに対峙するのだとしたら、日本酒は対照的に寄り添う存在です。懐が深く、基本的にどんな料理とも合う。ただし、『天彩』には違う印象を持ちました。驚くほどの凝縮感があり、好奇心をくすぐられる複雑な香りがしたのです。もともと日本酒が好きで、若い頃からいろんな銘柄を味わってきましたが、これほど料理人としての創作意欲を掻き立てる日本酒に出会ったのは、初めてのことです」

とろりとした蜜のようなニュアンスに導かれて

『天彩』はその醸造過程において、“仕込み水”の一部に日本酒を使って製造します。この“累乗仕込み”によって甘味、酸味、旨味、苦味が複層的に重なり、芳醇な味わいが生まれます。なかでも原田シェフは特に“芳ばしい甘さ”に料理人として食指を動かされたと言います。

「蜂蜜やメープルシロップを思わせる甘やかな香り、豊かなコク。ナッツを使った料理と合わせたいと思いました。そこで閃いたのがグラノーラです。日ごろ私が使っているグラノーラにはかすかにメープルシロップが絡み、ローストもされています。これを活用することで、ペアリングの焦点が定まりました」

原田シェフの引き出しの中には、魚にグラノーラを組み合わせて味わいに膨らみを持たせるという表現方法がありました。加えて『天彩』のふくよかなボリューム感には、魚もパンチがある方がよく合う。魚は、上質な脂をたくわえた長崎・対馬産のノドグロに決めました。皮目から焼き上げたノドグロに酸味を効かせたアンチョビソースを塗り、軽く素揚げにしたグラノーラをまぶします。

さっと油にくぐらせて芳ばしさを増したグラノーラと、旨みを閉じ込めたノドグロの共演はいかにも『天彩』と相性が良さそうですが、原田シェフは「これだけでは太刀打ちできません」と言います。

「『天彩』と向かい合うためにもうひとつ欲しいのが、苦味。前に『天彩』に合わせて料理を作ったときは鮎を使いました。鮎の苦味と酒の甘みのバランスがベストだと感じたからです。その経験を基に、今回はノドグロとグラノーラに赤茄子の肝焼きを添えます。ノドグロの肝をピュレ状にして、赤茄子に塗って焼いたものです」

赤茄子の肝焼きの上に、グラノーラを纏うノドグロを重ねます。それぞれを単体の料理にはせずに重ねたのは、一緒に味わってもらいたいから。ノドグロと赤茄子を口に運ぶと、まず芳ばしさが鼻に抜け、甘味と、酸味、旨味、苦味が渾然一体となりました。『天彩』に呼応するかのような複層的な味わい。そして料理とともに『天彩』を口に含むと、点と点とが線になり、絡み合って長く続いていく反響するような余韻が訪れます。

『対馬産・ノドグロのグラノーラ焼き 肝焼きの赤茄子』

思い込みから脱却する

「『天彩』は固定観念を捨てることを教えてくれました」と、原田シェフは愉快そうに笑います。

「初めて『天彩』を口にしたとき、ほとんど何の情報もないままに飲み、ペアリングを考案しました。あとからデザート日本酒と聞いて、驚いたんですよ。私は昭和生まれの人間で、先入観や固定観念にとらわれがちです。デザートワインは一般に食前か食後に登場します。デザート日本酒にしても、前菜やメインとペアリングさせようとは思わなかったでしょう。そうすると、鮎の料理も、ノドグロの料理も生まれてなかったですね」

先に考案した鮎の料理と『天彩』のペアリングは、鮎が旬である先年の夏に提供したところ、ゲストからの反響も大きかったといいます。「ここ1〜2年の日本酒ペアリングのなかで一番評判が良かったように感じています。そこで手応えを得たので、ノドグロの料理を披露するのも楽しみでなりません」

イタリアンレストランに来ているゲストの多くはイタリアワインを求めて訪れます。あえて日本酒を出そうというのは、チャレンジとも思えます。

「『天彩』にはうちに来てくださる方を楽しませるポテンシャルがある。だから正式にコースに組み込んだのです。ペアリングに日本酒を採用したのは初めてでしたが、そうさせる魅力がこの日本酒にはあるんです。実際にやってみたら、イタリアワインのペアリングの中にひとつ日本酒が入ると、一気にドラマチックな展開になることにも気付けました」

ひとつの挑戦は、新鮮な発見をもたらすとともに、それ自体が新たな挑戦心をも掻き立てます。「日本酒には魚を合わせたくなってしまいますが、機会があれば肉料理も考案してみたいです」と声を弾ませるシェフの姿は、日本酒とイタリア料理の新しい可能性を物語っているようです。