ふたりの開拓者が生み出した『礼比』。その輝きで世界を照らす。
2010年5月14日。マイナス5℃の氷温庫で眠りについたお酒は、13年後に『礼比』と名付けられ、世界に届けられました。
そして迎えた2024年5月。またひとつの時を重ね、妖艶な香りとエレガントな味わいで飲む人を魅了しています。
『礼比』のイエローゴールドの輝きは、グラスに注いだその一時だけでなく、日本酒の未来をも明るく照らします。その煌めきをつくり出したのは、『礼比』の醸造パートナーである永井酒造6代目蔵元・永井則吉さんと、SAKE HUNDREDブランドオーナー・生駒龍史です。人生を賭して日本酒の可能性に挑戦する二人の情熱の源泉を、対談を通して探っていきます。
二人の開拓者の出逢い
— 『礼比』共同開発の背景
生駒:永井さんの存在を強く意識するようになったのは、2017年に行われた「awa酒協会」認定披露の場でした。同協会はスパークリング日本酒に“awa酒”という認定基準を設け、世界基準の乾杯酒を目指しています。当時、招待客としてその場にいた私は、協会理事長として壇上に立つ永井さんを見上げていました。
永井さんは、自社の利益追求だけでなく、産業全体の活性化にも尽力されています。美味しい日本酒を造る素晴らしい酒蔵はたくさんありますが、産業全体のために行動を起こせる人はごくわずかです。永井さんが旗を振ることで人が集い、社会が変わっていく。そういう流れをつくれる人だと感じています。
永井:多くの酒蔵は、美味しいお酒をつくれば売れるだろうと思っているんです。ですが、実際はそうではない。お酒の美味しさや価値が伝わらないと、売れることはありません。
それまで酒蔵が不得手としていた“日本酒の価値を伝える”ことに挑戦を続けてきた生駒さんの姿勢に、以前から敬意を持っていました。その後、SAKE HUNDREDを創業され、高価格帯の日本酒のみで勝負すると明確に打ち出されていて、ずばっと突き抜けてやってくれたことに、尊敬の念を持っています。
自分が22歳で蔵に入った当初、ショックだったことがありました。「原料米に山田錦を使った精米歩合50%の純米大吟醸」とあると、どんな酒蔵が造ってもほぼ値段が決まってしまうんです。それに対して、数百円値上げするだけで「ふざけるな」と酒販店に言われてしまいました。
競争原理がないこの状況に、日本酒はそれでいいのかと、ずっと疑問を持っていたんです。そんな中で生駒さんの振り切ってやる覚悟に、大きな勇気をもらいました。生駒さんとのビジネスの話は、実は私からラブコールをしたんです。一緒に何かやりませんか、と。
ロマネ・コンティを超えるお酒をつくりたい
— 持続的に価値を上げる
生駒:老舗の酒蔵からベンチャー相手に連絡をするのは、とてもハードルが高いと思うんです。実際、当時多くの酒蔵はSAKE HUNDREDの動きを静視していました。ですから、永井さんからのお声がけにはとても驚きました。
ご連絡をいただいて、すぐに蔵に伺いました。その時に「日本酒でロマネ・コンティを超えるお酒をつくりたい」と話してくれたんです。僕は永井さんに対して、awa酒をつくりあげたスパークリング日本酒のパイオニアというイメージが強くあったので、永井さんが熟成酒の研究を30年も続けてこられたことに、驚嘆しました。
永井:23歳で出会った感動が、熟成酒をやるきっかけでした。「世界を目指す酒造りをしたいならワインについて知るべきだ」と先輩が招待してくれたワイン会で、稲妻が落ちたんです。ロマネ・コンティのモンラッシェ 1988年でした。今でも強烈に覚えています。自分がつくる金賞酒と比較したら、絶対こっちのほうが上手だなと。この力強さ、しなやかさとエレガントさは何なんだと。
その後、両親の猛反対を押し切って、蔵のお酒を自ら買い取り熟成酒の研究を始めました。
生駒:すさまじい原体験ですね。そこから「氷温」というひとつの解に辿り着くにも10年かかったと聞いています。経営は順風満帆ばかりではないと思いますが、たとえ大変な状況でも研究をやめず続けてこられたのは、本当にすごいことだと感じています。
永井さんにとって熟成酒は、虎の子であり、とても大切なお酒ですよね。私が蔵を訪問して意気投合し、後に『礼比』となるお酒をご提案いただきましたが、その時点で「二度と出会えないほどのお酒だ」と確信していました。味わいはもちろん、氷温熟成という挑戦や永井さんの研究にかける情熱など、ストーリーも唯一無二です。自社で売る選択肢もあったと思いますが、どういう思いで私たちに託していただいたのでしょうか?
永井:持続的に高級市場でビジネスをしている生駒さんの背中を見て、この人だったら、SAKE HUNDREDだったら、大事に価値を上げていただけると思ったんです。大切にしている宝物をお預けできると確信しました。
生駒:そのように信頼していただけるのは、とてもありがたいです。私たちが決めた商品名をお伝えしたときのことは、とても印象的です。『礼比』の礼は“尊い贈りもの”という意味です。「比肩するもののない尊い日本酒として、世の中に届けていきましょう」とお伝えすると、少し目が潤んでいらっしゃいましたね。
永井:涙しましたね。私たちの想いまで表現されているようで、とても感動しました。
零下の時を経て、生み出された賜物
— 氷温熟成酒『礼比』の魅力
生駒:このような背景を経て、2023年に氷温熟成13年の『礼比』をリリースしました。3〜4万円が中心のSAKE HUNDREDのなかでも、15万円という『礼比』の価格はとりわけ高額です。我々にとっても大きなチャレンジでした。
『礼比』は特別な商品ですから、販売方法も通常とは異なっています。購入希望のお客様には事前にメールアドレスの登録をお願いしていて、商品のストーリーをお読みいただいてから購入をご案内しています。また、ホテルのスイートルームでお客様をお迎えして、私から直接『礼比』の魅力をお伝えする機会もつくっています。なかには、1本はご自分に、1本は贈り物に、1本は保管用にと、何本も買ってくださるお客様もいらっしゃるんです。熟成酒としての希少性だけでなく、氷温熟成であることも含め、ストーリー全体に価値を感じてくれているのだと思います。
永井:氷温熟成14年の『礼比』は、1年前に比べると、余韻が5秒ほど長くなっているように感じます。モンラッシェのように、飲んだ後に存在感が出てくるお酒を造りたいと思い続けてきました。余韻の心地良さは『礼比』に通じるところがあります。この後も、まだまだ熟成させられると思います。
生駒:オーケストラのように反響していく余韻ですよね。存在感がとても強いので、ペアリングよりも単体でお楽しみいただくことをおすすめしています。累乗酒特有の甘味が、氷温熟成を経てきめ細かくなっています。酸も上手く立っていて、ものすごくバランスが良いお酒です。
永井:累乗している元も純米大吟醸なんです。純米大吟醸で、純米大吟醸を仕込んでいる。正真正銘、米と米麹しか使っていないお酒です。3年をフレンチオーク樽で寝かせていますが、実は、樽に寝かせる前はもう少し色味が濃かったんです。樽の内面を焼いている炭で色が吸着されて、美しいイエローゴールドになりました。
日本酒の可能性のトップライン
— 『礼比』が照らす日本酒の未来
永井:永井酒造が昨年8月にオープンしたテイスティングルーム&醸造研究所「SHINKA」に、『礼比』を買ったお客様が訪れてくれたことがありました。テイスティングルームは、永井酒造のヴィンテージをご購入いただいたお客様だけをご招待している特別な空間です。『礼比』を通して永井酒造の価値までお客様に届いていることを、嬉しく思っています。
生駒:その波及効果は嬉しいですね。SAKE HUNDREDは、いわばピラミッドの頂点を目指していて、とっておきのときに選ばれる日本酒でありたいと思っています。同時に、それをきっかけにして幅広い日本酒の魅力に気づき、楽しんでいただくことも、私たちが実現したいことのひとつです。
熟成酒の市場を広げることで、手に取りやすい価格の熟成酒も、ハイエンドな熟成酒も、適切に評価されるようにしていきたい。その中で『礼比』は、日本酒の可能性のトップラインを引き上げる存在として、さらに価値を上げていくべきだと考えています。
永井:ここ数年で、日本酒のコアなファンより、倉庫にワイン数千本預けてます、ウイスキーのヴィンテージを求めて世界を旅しています、というお客様が増えてきたように思います。そういった人たちに、我々日本酒業界からはボールを投げてこなかったと気づきました。ラグジュアリーな商品の選択肢として日本酒が入るようになったのは、SAKE HUNDREDの大きな功績だと思います。
生駒:ベンチャーと酒蔵の役割分担だと思っています。酒蔵には歴史と伝統があり、受け継いだバトンを渡すことが重要です。そのことに、私も強い敬意を持っています。一方、ベンチャーはリスクを背負えます。わずかな可能性を信じて、成功のためにあらゆる手段を講じ、失敗を恐れず挑戦を続けることができる。両方あっていいんです。
実際に、日本酒の高級市場には大きな可能性があります。しかし、生半可に開拓できるものじゃない。労力もコストもありったけ投下しないと切り拓くのは難しい。だからこそ、ここはリスクを取ることのできるベンチャーの役割だと思っています。そして、跳ね返るものがあれば、その後は産業全体でさらに盛り上げていけばいいと思うんです。
永井:僕が人生をかけてやる仕事と腹で決めているのは、日本酒文化の価値創造なんです。これを徹底的にやって、世界の価値にしていきたい。ずっと思っていることです。それをいち速く実現するために、生駒さんと一緒に走り抜けていきたいですね。