『思凛|SHIRIN』について詳しく見る

静謐とエレガンスが薫る、ミズナラ樽貯蔵酒『思凛』— “挑戦”というアイデンティティ

静かな森に流れる、悠久の時。一歩足を踏み入れれば、樹木の深々とした香りが鼻をくすぐり、人々はそこに安らぎと癒しを感じ取ります。そうした原体験的な風景は、「密やかにたたずむ、森のエレガンス」をコンセプトとする『思凛』のイメージに重なります。


しかし、それを実現するための道は手探りの連続でした。丁寧に造りあげた極上の日本酒を樽で貯蔵させるという試みは、誰も歩んだことのない未知への挑戦。

「どこにもない日本酒をつくる」

そんな思いと冒険心が、この日本酒の原点です。

 
まだ見ぬ、日本酒の未来を拓く 


「樽貯蔵」と聞くと、琥珀色の酒をイメージしがちですが、『思凛』は目を凝らせばわずかに色がかってはいるものの、あくまでも澄み切った透明な色調。その味わいも、樽のニュアンスばかりが前面に出ているわけではありません。

もちろんそれは意図した設計で、目指したのは日本酒本来の味わいと樽香が最高のバランスで両立する一点。森に分け入るかのように心を解きほぐし、グラスの底に奥ゆかしいミズナラの樽の香りを見出す。それこそが、『思凛』が辿り着いた極地です。

『思凛』を貯蔵するミズナラ(ジャパニーズオーク)の樽

『思凛』を醸造する酒蔵・奥羽自慢は、霊峰として知られる出羽三山の麓。月山の伏流水が流れる山形県鶴岡市に蔵を構えています。

醸造責任者である阿部龍弥さんは、静謐な空気が立ち込める早朝、ひとつひとつの樽の前に立ち止まり、その味を確認してゆきます。味覚がもっとも研ぎ澄まされる朝一番に、一雫と向き合います。

『思凛』の魅力は、「繊細さと、樽貯蔵にも負けない芯の強さ」だと阿部さんは話します。

当初、『思凛』のコンセプトを私たちが伝えたとき、阿部さんは正直に驚いていました。山田錦を精米歩合18%まで磨いて醸した酒は、絹糸のように繊細な味わいになります。それを樽で貯蔵させるというのは、阿部さんの醸造経験をしても前代未聞のこと。失敗すれば、お酒本来の優美さを樽が覆い隠してしまいます。

それでも、「繊細な造りとミズナラ樽の最高のバランスを求めた、まだ誰もつくったことのない日本酒を目指す」という方向性が定まると、「未知への挑戦に心が掻き立てられた」と当時を振り返ります。

 
たゆまぬ挑戦そのものが『思凛』のアイデンティティ 


『思凛』の個性を形づくるのに不可欠なミズナラの樽。これは、京都の洋樽メーカー・有明産業の職人たちが手がけたものです。原料となるミズナラは、希少な北海道産を使用しています。さらに、私たちがこだわったのは「サステナブルな樽」であること。

『思凛』はひとつの樽だけで完成するのではなく、絶妙な味わいのバランスを実現するために、新樽と古樽でそれぞれで貯蔵させたものをブレンドして仕上げます。

樽の奥で水面がたゆたう

また、樽は内側のトースト(焼き)の強弱で香りの付き方が変わってきます。『思凛』では、樽そのものはミディアムトーストに仕上げつつ、貯蔵期間を短くすることで、樽香のニュアンスを調整。米の味わいとミズナラの香りのバランスが理想的になる一瞬を見極めます。

テイスティングはワイン用のスポイトを使って行います

試作はなく、すべてが一発本番の造り。香りの見極めには緊張感を伴います。

初年の熟成期間は約9日間。その結果、日本酒そのものの瑞々しさと吟醸香を保ったまま、上質な樽香をほのかにまとい、見事なバランスの日本酒が完成しました。

たゆまぬ挑戦がもたらした、『思凛』という日本酒の誕生です。

樽貯蔵中の変化は、一定ではなく変則的。造り手の感覚を頼りに進行を見極めます

2年目以降の醸造においても、一期目と同じだけ貯蔵すればいい、ということはありません。その時々の湿度や気温によって、樽の成分の抽出具合が異なります。『思凛』は未知の領域への挑戦。だからこそ、ルーティンに流されては本質を見失ってしまいます。

阿部さんが見つめるのは、「今年の完成度を、いかに理想に近づけるか」という一点。日々繰り返される静かな挑戦そのものが、『思凛』のアイデンティティと言えるでしょう。

 
時代を超える革新を 

磨き抜いたピュアな味わい。ギリギリまで削ぎ落としたミニマルな美意識。美しい森林のなかに身を置いているかのような、静かな充足に満たされつつも、すっと自然に背筋が伸びる、そんな日本酒。

味わいの骨組みをつくるのは、奥羽自慢の日本酒造りの個性でもある、瑞々しい酸です。口に含むと、リンゴ酸を中心とした幾重にも重なる酸味が広がり、米の繊細な旨味と調和して立体的な味わいをつくります。

樽から抽出されるのは、香りだけではありません。米のふくらみにしっかりとした輪郭を与えるタンニン由来のほのかな渋みも魅力です。

米の豊かな味わいも、ミズナラの芳香やタンニンも、すべては日本の豊穣な大地から生み出された日本のテロワール。

米と木のエッセンスを出羽三山の主峰「月山」の伏流水で抽出した酒は、日本の風土そのものから生み出された新しい命。海からの水蒸気は雨となって大地に降り注ぎ、地下水として森の木々に蓄えられ、落ち葉の養分に富んだ水が川に流れ、生き物を養う。

『思凛』が体現するのは、日本の自然の、循環そのものでもあります。

奥羽自慢の酒造りに不可欠な地下水

『思凛』は“日本酒の樽貯蔵”という様式に、ひとつの新たな道を示しました。それは、日本酒という産業における、未来に向けた革新である。私たちはそう確信しています。

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