たゆまぬ姿勢がつくり出す到達点 — 『百光』

しんと冷えた冬の早朝のような透明感。その奥に立ちのぼる、ユリの花を思わせるエレガントな香りと甘み。そして伸びやかに続いていく余韻。SAKE HUNDRED『百光』は、私たちがつくる日本酒において、ひとつの到達点とも呼ぶべき存在です。

しかし、その魅惑的な味わいと香りは、決してなにかひとつだけの突出したこだわりによって生まれるものではありません。原料から造りの細部まで、あらゆる追求の結果として、深く、豊かで、奥行きのある味わいへと到達します。

より深く『百光』を楽しんでいただくために、造りのストーリーをお届けします。

 
素材の持ち味と透明感が両立する「18%精米」 

山形県の北西部、北側を「出羽富士」とも呼ばれる鳥海山、東側を出羽三山と多くの山々に抱かれた庄内平野は、山から流れる清涼な雪解け水によって、米作りに適した肥沃な土地として知られています。

この庄内地域のなかでも、特に雪深い山麓部に、『百光』を醸造する酒蔵・楯の川酒造はあります。

山形県酒田市「楯の川酒造」

2010年秋以来、楯の川酒造は精米歩合50%以下の純米大吟醸酒造りだけに専念してきました。これは日本酒産業全体を俯瞰しても、稀に見る決断です。しかしその決断をしたことで、楯の川酒造は高精白の造りに特化した酒蔵として、技術と知見を年々深め、広くその名を知られることとなりました。

『百光』の醸造においても、これまでに培った高精白の日本酒造りに対する技術や知見が凝縮されています。

18%精白後の酒米「出羽燦々」

『百光』は⼭形県産の「出⽻燦々(有機栽培米)」を原料米とし、精米歩合は18%。その味わいの大きな特徴は、18%の磨きがもたらす、瑞々しい甘みとふくよかな旨み、そして圧倒的な透明感です。

「18%という精米歩合は、高精白によるクリアさと、素材の持ち味を両得できる、ベストな割合だと思っています」(楯の川酒造 製造部長・川名啓介さん)

これ以上でも、これ以下でもない。18%という精米歩合は、『百光』が理想とする味わいに到達する上で、重要なファクターとなっています。

しかし、18%精米までの道のりは、決して簡単なものではありません。

例えば、『百光』の仕込み量である600kgの米を40%まで磨くには約60時間を要しますが、18%ともなれば費やす時間は200時間以上。米は磨けば磨くほど割れやすくなり、その扱いの難度は格段に増してきます。精米という作業ひとつにしても、大変な労力と技術が求められるのです。

自社で精米機を有し、磨きから一貫した体制で酒造りを続ける楯の川酒造の技術をもって、ようやく実現されるのが18%という精米歩合の日本酒なのです。

あらゆる工程で最適解を取り続ける

醸造過程の中で、『百光』の品質を実現するために必要なこと。それは、なにかひとつの突出したこだわりを持つことではなく、あらゆる工程で細部まで考え抜き、最適解を取り続けることです。

酒造りとは、言わば「状態管理」の連続。大きく”衛生環境”と”温度”というふたつの要素に徹底的に気を配り、コントロールすることが求められます。

例えば、衛生管理の徹底ぶりを物語るのが、麹づくりのワンシーンです。

多くの酒蔵では、蒸米に麹菌を繁殖させる段階で、「麹箱」という木製の箱が用いられていますが、楯の川酒造ではアルミ製の麹箱を採用しています。これは、木製だと経年劣化などが原因で表面に凹凸ができやすく、その部分まで完全に洗浄することが難しいためです。

麹づくりは、日本酒の味わいの方向性を定める大きな要素のひとつ。雑菌が少し混じるだけで、麹菌本来の働きを阻害したり、意図しない働きが生じ、仕上がりに大きく影響します。

考え方によっては、そうした菌の予期せぬ働きを「酒造りの妙」としてポジティブに捉える場合もあります。しかし、『百光』が理想とする味わいを再現性高く生み出すためには、どんなに小さくとも、”変数”となりうる要素をできる限り取り除くことが求められるのです。

撹拌される醪

厳しい温度管理もまた、菌の働きを抑制・助長する、あるいは仕上がりの品質を維持するために必要不可欠です。

『百光』では、華やかな吟醸香を生成する酵母が使われています。反面、その酵母は繊細で温度変化に弱く、温度によっては菌が死滅し、雑味が生じてしまいます。

仕込みタンクに入っている醪の最終的な発酵温度は7〜8℃。この温度を保ちながら、およそ1ヶ月間、ゆっくりと低温発酵させることで、綺麗な酒質のまま、少しずつ味と香りが増長されていきます。

設定する温度と実際のタンク内の温度を一目で管理

頂点に達した味わいを届けるために

こうした厳しい衛生管理と温度管理のもと、『百光』は理想とする完成形へと向かっていきます。

そ して、それは醪タンクのなかでピークを迎えます。発酵が落ち着き、味と香りがこれ以上は膨らまなくなる点に達するのです。

大事なのは、この”頂点”とも言える状態をどのようにして保つのか。空気に触れることによって起こる酸化や、意図しない温度変化は、香りや味が変化する要因になってしまいます。

そのような劣化を防ぐため、楯の川酒造では、搾った後の日本酒の輸送ホースに、温度上昇を防ぐためのパッキングを施しています。ふつうであれば見過ごしてしまいそうな光景ですが、同業者が見れば「ここまでやるのか」と驚くほどの細部へのこだわりです。

ただ、いかに細部にこだわろうとも、飲む人が格別に「おいしい」と感じられなければ意味はありません。状態や成分の分析以上に、目と舌による官能検査が重要であると川名さんは話します。

「どれほど製造をシステマティックにしても、造り手の五感による判断の必要性が変わることはありません。酒造りには、自然環境や微生物など、不確定要素がたくさん関わっています。人間の目には見えませんが、確実になにかが起きているから数値や成分が変化する。わからないからこそ面白く、わからないからこそ常に真摯な気持ちで向き合わなければいけません」

上槽直後の『百光』

搾りを終えると、酒造りは最終段階。出荷後に酸化を起こさないよう、瓶内の空気を窒素置換しつつ瓶詰めを行ないます。

まるで瓶内の時間だけが止まったかのように、最高の状態を保ったまま、『百光』は飲む人の元へと届けられていきます。

封を開けたら、まずは華やかな香りを感じてください。そしてグラスに注いで口に含み、ふくよかな甘みと旨み、やわらかな酸を味わってください。

原料から造りまで、あらゆる工程で追求を重ねるのも、すべては飲む人が「満たされる」ため。

やがて訪れる、驚くほど伸びやかな余韻。それを感じてもらう瞬間にこそ、『百光』は本当の意味で完成を迎えるのではないか。私たちはそう思っています。