『思凛|SHIRIN』について詳しく見る

思凛 ―日本酒の可能性を拓く、樽貯蔵への挑戦

SAKE HUNDREDは2020年7月、Premier Oaked Sake『思凛|SHIRIN』をリリースしました。

兵庫県産山田錦で造られた精米歩合18%のクリアな純米大吟醸酒を、ジャパニーズオーク(ミズナラ)の樽に9日間貯蔵。上質な吟醸香の奥にほのかにオーク香が感じられる、繊細で張りつめたエレガンスを表現した日本酒です。

ウイスキーやワインなどに比べ、日本酒の樽貯蔵はまだまだ一般的ではありません。しかし、日本酒の香りや味わいに樽香が高次元で融合することで、これまでにない素晴らしい日本酒体験を提供できると確信していました。

味わいに輪郭を与える酸味

SAKE HUNDREDの商品はいずれも、甘やかな味わいと豊かな旨味を持ちながら、雑味のない透明感を追求しています。さらに、思凛の味わいの鍵となったのは「酸味」。豊かな樽の香りを受けとめ、お酒の味わいに輪郭を与えて引き締めるのが酸味です。

醸造を担う山形県鶴岡市の酒蔵『奥羽自慢』は、バランスに優れる素晴らしい酸を活かすことに長けた酒蔵。イメージする思凛の香りと、それを支える酸味を表現するのに不可欠なパートナーでした。

ジャパニーズオークとの出会い

樽貯蔵では、樽の種類や状態、内側の焼き方、貯蔵期間などによって味わいや香りが大きく変化します。特に議論を重ねたのは、樽の素材でした。

思凛の製造に用いた樽は北海道産のミズナラ。ジャパニーズオークと呼ばれるものですが、日本酒の貯蔵樽として使われることは滅多にありません。一般的なのはアメリカンオークやフレンチオークです。

アメリカンオークは価格も安く、樽の香りがしっかりとつきやすい素材です。ですが香りが強すぎるため、繊細な香味の思凛には向きません。フレンチオークは、アメリカンよりも高価ながら特徴的な「バニラ香」をもたらす素材です。高価格な白ワインや、一部の日本酒にも用いられています。私たちも当初はフレンチオークで貯蔵することを考えていました。

しかし、最終的に私たちが採用したのは「ジャパニーズオーク」でした。

ジャパニーズオークの香りは繊細で、ハーブのようなボタニカルなニュアンスがあります。価格はフレンチオークのさらに数倍しますが、ジャパニーズオークによってもたらされる独特の香りから、ピンと張り詰めた緊張感、森林のなかにいるような清涼感が感じられ、吟醸香の中に樽の香りがしっとりと閉じ込められ、絶妙なバランスでした。

この絶妙な香りのバランスこそ、思凛の目指す“凛”とした世界観に相応しい——そう考え、ジャパニーズオークを選択しました。

樽につける日数も熟考を重ねました。

一般的に、貯蔵期間が長くなるほど樽の香りは強くお酒についていきます。香りが弱すぎても退屈なお酒になりますが、強すぎてもエレガントな香りとはなりません。

目指したのは、「上立ち香ではわずかにしか感じられないが、グラスに鼻を近づけて香りを取りにいくと確かに存在感を放つ」という、絶妙なバランスと強度。その実現のため、樽につけてから毎日香りを観察し、樽から出すタイミングを見極めていきました。

樽に入れて最初の数日は、木の香りが強すぎてお酒に馴染まず、青みの強い状態が続きます。それが変わるのが、5日目。樽の香りがお酒に馴染み、徐々に一体感が生まれていきました。7日目でさらに馴染み、後は香りの強さをどれだけ引き出していくかの段階へ。私たちはここで「あと2日」と決めて、9日目に樽からあげました。

思凛は香りとお酒の調和を最優先するために、火入れしない生酒の状態で樽貯蔵を行いました。また樽には、内側表面を軽めに焼く「トースト」という加工を入れています。これらひとつひとつのファクトが、思凛のエレガントな香りをもたらしています

繊細さの中の奥深さ

グラスに注いだ段階では、その香りはあまりわからないかもしれません。しかし、グラスを回して空気に触れると、フッと樽の香りが現れる。自ら探さないと感じられないものの、探しにいくと、奥深くトースティな香りがしっかりと顔を見せます。

飲み口はシルクのように滑らかで甘味がありながら、全体の骨格をなす酸がしっかりと感じられ、口から鼻に抜ける香りには、たしかに樽のロースト香が感じられます。

おすすめの飲用温度は、6度。まずはしっかりと冷やし、お酒そのものの透明感や、繊細さ、上質さを味わってください。時間の経過とともに温度が上がれば、徐々に樽の香りが豊かになっていきます。

思凛は派手さのない、静かなお酒です。しかし、繊細さのなかに深淵な味と香りが眠っている。これこそが、私たちの考えるオーク樽と吟醸を融合させた理想の味わいです。

上質な吟醸香の奥にほのかに立つオーク香。それは、繊細で静かに張りつめたエレガンスを感じさせます。『思凛』を口にした瞬間の、凛として美しい一瞬に、思いを巡らせてください。

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